納税資金の確保を目的とした対策

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納税資金の確保を目的とした対策

ピカソの遺族は、フランスの莫大な相続税を約5,000点の作品で物納しました。ピカソのような芸術的才能を持っていない方のうち、特に下記の方は要注意です。

高価値の不動産を所有しているが、預金や上場株式などの金融資産が少ない、という場合。中小企業のオーナーで、試算してみると会社の株価の評価額が非常に高いが、もちろん株式を他人に売るわけにはいかない、(あるいは買い手がいない)、という場合。

相続税そのものを減らす対策と同程度に、相続税納税資金を確保しておくことも重要な相続対策です。

生命保険

相続税を試算してみると、納税資金が足りない、という方は珍しくありません。
(とりあえず、相続人たちの固有の預金等は考慮外とします。)

このようなとき、手っ取り早い対策としては、相続税額と同額の死亡保険金を遺族が受け取る生命保険に加入することです。ただし、一定額以上の死亡保険金にも相続税がかかりますから、下記の試算が必要です。

受取死亡保険金 + 支払保険料により預金が減少する分、圧縮される相続税 > 支払保険料 + 受取死亡保険金に課される相続税

ならばこの生命保険契約は有意というわけです。

納税資金の銀行借入

相続税には延納という制度があります。税金の分割払いですが、この制度を積極的に使う相続人はほとんどいない筈です。と申しますのも、延納すると利子税という利息を上乗せして納税しなければならないのですが、この利率が、銀行で借りるより高いからなのです。
納税資金を銀行で借りた方が得なので、私も延納よりこちらをお勧めします。

しかし、個人事業主や中小企業の経営者の方で、事業の運転資金を銀行から借りるのに骨を折っておられる方は少なくありません。
そのような方ならば、相続税の納税資金という、いわば後ろ向きの融資を受けることがいかにハードルが高いか想像がつく筈です。

その日が来たとき、銀行から融資を受けやすいよう、カードで無駄なキャッシングをしたり、携帯料金を滞納する癖があったりしないようにしましょう。不動産をお持ちの方は、納税資金融資の担保とできるよう、無担保の物件を一つ作っておくことが望ましいです。

物納予定財産

相続税には、物納という制度もあります。現金の代わりに不動産や有価証券で納税する、という相続税にだけ認められている制度です。

不動産のうち、借地権設定がされていて底地だけの所有になっている物件や、更地で利用していない土地などを、生前のうちに物納予定財産としておくのも有意です。

隣地の所有者との境界線のトラブルを抱えていると物納できません。費用をかけてでも測量をして境界線を画定しておくのも、相続対策のひとつです。

相続発生直後の預金引き出し

納税資金と直接関係がありませんが、遺族の方が必ず直面するのが、葬式費用等の支払いのために、故人の預金を引き出せるか、という問題です。銀行は、相続が発生したことを知れば預金を封鎖して引出し、振込をできなくします。(法定相続人の全員の了解なしに、故人の預金を誰かに支払うわけにいかないのは銀行として当然のことです。)

公然と言えることではないのですが、その日が近づいたら(来たら)銀行へ行って、葬式費用や、故人が事業を営んでおられたなら当座の運転資金を引き出しておくべきでしょう。後日、遺言書の開封や、遺産分割協議をするときに、その現金も遺産に含めて遺産を分ければよいのです。

なお、相続税の申告にあたっては、その日の直前に引き出された現金は被相続人の手許現金として相続税が課されます。

公益法人への遺贈、寄付

遺言書によって国、地方公共団体、「特定の公益法人」(社会福祉法人や認定NPO等)に財産を寄付すると、その財産には相続税は課されません。
また、遺族が相続した財産を、相続税申告期限(相続発生日から10か月)までに寄付した場合も、その財産相続税非課税とされます。寄付する先が公益法人である場合は、相続発生から2年以内にその財産を公益目的に使用しなくてはなりません。
かつて私共が承った相続税申告で、故人が生前に収集していた高価な美術品を、大急ぎで大学に寄贈した、というケースがありました。美術品の評価額に相当する相続税を納付できるだけの金融資産がなかったからです。

…公益法人といえば、アルフレッド・ノーベルの遺族は、相続税を納税できたのでしょうか?
遺言書によって、ダイナマイトの発明で得た巨額の財産のうち、94%を出資してノーベル賞(ノーベル財団)を創設してしまったのですから、納税資金がまったく足りなかった筈です。

ノーベルが今年、日本で亡くなったと仮定して節税手続きを考えてみます。
彼が生前に財団法人を設立し、東京都から公益認定を受けておき、遺言書で財産を遺贈すれば、なにもしなくても相続税非課税でした。
しかし、亡くなった時点ではノーベル財団はありませんでしたから、遺族は自分が相続した財産を財団に寄付する、という体裁になります。ですから、遺族は大急ぎでノーベル財団を設立しなければなりません!私共が相談を受けたなら、その法人格はNPOをお勧めします。比較的、設立に時間がかからないからです。
設立したばかりのノーベル財団を、「特定の公益法人」と認めてもらうには仮認定NPO制度を使うしかありません。日本赤十字社や日本ユニセフ協会のように実績によって公益性を認めてもらう時間はないからです。
NPOノーベル財団は公益性が高いということで、東京都から、寄付された財産を相続税非課税とする「仮認定」を受けます。すみやかに臨時会員総会を開き、寄付の受け入れを決議して税務署に提出する議事録を作成し、寄付金をNPOの銀行口座に振り込みます。
ここまで、相続発生日から10か月の寸前で間に合ったとします。

さらに、相続発生日から2年以内に、実際にその財産を公益のために使い始めなくては、非課税が取り消されてしまいます。遺族はNPOに渡してしまった大金についてまで、相続税を課される破目になります。そこで、残り14カ月の間に物理学、化学、医学生理学、文学、平和の5部門の、世界中の人が納得する受賞者を選び、受賞者が賞金等を受け取る段取りをつけなくてはなりません。
また、ノーベルの遺族は認定NPOノーベル財団の理事や職員になって高額の給与を得ないようにします。
これでようやく、遺族が寄付した額については、相続税非課税とできます。

さて、1896年のノーベルの遺族は、相続税を納税できたのでしょうか?
もしかすると、当時のスウェーデンには相続税がなかったのか?
彼は生涯独身でしたが、甥姪は当時のスウェーデンの民法では法定相続人ではなく、残り6%の遺贈された額だけ相続税を納付すればよかったのか?
あるいは、あまりに高邁な遺言なので、政府が租税特別措置法を作ってノーベル財団への出資分だけは非課税を認めたのか?
興味深いので、いつか調べてこのHPでご報告します。

以上、納税資金の確保を目的とした対策を一般論として列記しました。実践にあたっては税理士か、亡くなった(先に亡くなる予定の)方の住所地の最寄りの税務署にご相談ください。